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作曲家・坂本龍一が語る“ピアノ”という楽器との関係性

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『戦場のメリークリスマス』をはじめ、数々の楽曲を手がけてきた作曲家の坂本龍一。2024年12月に発売された彼の著書「ピアノへの旅」では、坂本が音楽学者の伊東信宏上尾信也らとともに、“ピアノ”という楽器についてさまざまな視点から深掘りしていく。長年ピアノに触れ続けてきた坂本は、いったい何を語るのだろうか。

●「自分をピアニストだと思ったことは一度もない」

3歳の頃からピアノを習いはじめ、10歳ですでに作曲も学んでいたという坂本。彼が作った曲にはピアノが用いられているものが多く、「坂本といえばピアニスト」というイメージを持つ人も少なくないだろう。ところが本人は、「自分をピアニストだと思ったことは一度もない」と語る。

ピアノの練習が大っ嫌い。ツェルニーとハノンがいちばん嫌いで、いつもいかに練習しないで弾くかっていうことばっかり考えている子どもでした。

小学校の時に、ツェルニーのある曲が特に嫌いで、40番の19あたりの曲が音楽として許せなかったんです。耳も目も汚れると思って、一度も家で練習しなかった。「絶対弾かない」って頑張って、半年間、先生と意地の張り合い。 (※注)

そもそも当時の坂本は、曲の好き嫌いにかかわらずピアノの練習自体をしなかったのだそう。もちろん彼にとってピアノはもっとも身近な楽器であり、作曲時の相棒的存在だ。しかし坂本は自身を“ピアニスト”だとは思ってこなかったために、コンサートなどで使う自分専用のピアノを長い間持っていなかった。

20年ぐらい前だったかな? ある日「ギタリストは自分のギターを持って弾いているんだから、人前でピアノを弾くためには、自分のピアノを持ちなさい」とマネージャーに言われて。お金をいただいて人前で演奏するんだから、そうしたほうがいいかなと思って、ヤマハに作ってもらいました。 (※注)

ピアノとの出会いは早かった坂本だが、彼の本質は意外にも“模範的な生粋のピアニスト”ではなかったようだ。

●現代ピアノの源流はおよそ300年前のイタリアにあり

幼少期からレッスンを受けていた経験がなくとも、日本においてピアノと一度も出会わずに大人になったという人はごく稀だろう。今や世界中の人にとって身近な楽器のひとつであるピアノの元祖は、およそ300年前のイタリア・フィレンツェで楽器製作者のクリストフォリが生み出した「グラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」だと言われている。

直接の前身にあたるチェンバロはタッチで音の強弱をつけることができず、同じくクラヴィコードは表情は出せるものの音が小さかったのに対して、クリストフォリのピアノは、「弱音と強音を伴う大型のチェンバロ」という名のとおり、強く大きな音と弱く小さな音のどちらも出すことができる点で画期的でした。

それを可能にしたのが、ダンバーやエスケープメントなどを備え、ハンマーで弦を叩いて音を出すメカニズムです。クリストフォリが考案したこの仕組みは、さまざまな試みを経て発展し、「イギリス式アクション」として現代のピアノにまで受け継がれていきます。

直接の前身にあたるチェンバロはタッチで音の強弱をつけることができず、同じくクラヴィコードは表情は出せるものの音が小さかったのに対して、クリストフォリのピアノは、「弱音と強音を伴う大型のチェンバロ」という名のとおり、強く大きな音と弱く小さな音のどちらも出すことができる点で画期的でした。

それを可能にしたのが、ダンバーやエスケープメントなどを備え、ハンマーで弦を叩いて音を出すメカニズムです。クリストフォリが考案したこの仕組みは、さまざまな試みを経て発展し、「イギリス式アクション」として現代のピアノにまで受け継がれていきます。 (※注)

●ピアノはなぜ広く普及したのか

1700年頃のイタリアで誕生したピアノが、やがて国境を越えてさまざまな地域へと広まっていったのはなぜか。この問いに対し、音楽学者の上尾は次のように分析する。

それまで楽器は職人が1台ずつ作って、1人の楽器奏者が自分の物として弾いたり吹いたりしていた。ところが、だれにでも音が出せるピアノという楽器は、工業製品として大量生産されて広まったので、世界の津々浦々で弾けるようになっていった。 (※注)

当時はそれまでの絶対君主制が終わり、ブルジョワが台頭しはじめる時代だったと語る坂本。そして上尾曰く、このとき社会の変化とともに楽譜を用いて音楽を演奏する層も現れたのだという。現代とは異なり楽器の生演奏でしか音楽を楽しむ術がなかったため、手軽かつ正確に音色を奏でられるピアノの登場は画期的だったのだ。

坂本龍一が識者と意見を交わしつつ、ピアノとのこれまでの関わりや楽器としての歴史を紐解いていく本書。音楽好きにとって興味深い内容が満載なので、気になる人はぜひ手に取ってみてほしい。

※注)坂本龍一「ピアノへの旅」より引用

坂本龍一が伝える音楽の魅力「schola」シリーズ

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タグ : レビュー・コラム

掲載: 2025年05月22日 10:50

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