アルバムとしては5年ぶりにリリースされた2枚組超大作(2001年リリース)。ドリルンベースからバロック~ノイズ音響、ソロ・ピアノ曲まで執拗なまでにテクスチャーと鳴りへの拘りを見せた至高の録音芸術集。のちに時代の寵児となるカニエ・ウェストにもサンプリングされたエイフェックス・ツインのメロディ・メイカーとしての才能がシンプルに堪能できる「Avril 14th」他全30曲を収録。
帯・解説[小野島大]付
発売・販売元 提供資料(2017/06/07)
91年にシングル"Analog Bubblebus"でデビューして以来、事実と誤解、虚言に偏見、そして妄想までもが入り混じり、奇人だ変人だ、はたまた天才だと騒がれてきたエイフェックス・ツインことリチャードD・ジェイムス。要はそんな物議を醸すほどに変な音を出す人って程度のことなのだが、当の本人は周りの喧噪を適当にあしらいつつ、普段メシを食ったり寝たりするのと同じように曲を作り、(本人いわく)金を得るためにリリースを続けてきた。96年に『Richard D.James Album』を出してからは、"Come To Daddy"(97年)、"Window Licker"(99年)といった2枚のシングルをリリースしただけで、一時はみずから引退めいた発言もしていたにもかかわらず、こうしてニュー・アルバムを携えて復活しました。まあ、作品が公に出たというだけで、彼自身のベッドルームでの創作活動は相変わらずだったはずだ。そして、この『Druqks』は2枚組全30曲という大作。これまでの経歴を総括するような、本当にさまざまな音の断片が詰まっている。高速ビートやインダストリアルなテクノ、静寂な音響モノ、ピアノの独奏など、ノイジーな曲とメロディアスな曲、静と動がちょうど半々ぐらい。なにより、表現がストレートになっているのを感じる。音に対するみずからの欲求を自分のルールに忠実に楽曲に仕上げていく術をさらに向上させたのだろう。ということで、本作はエイフェックス・ツイン=リチャードD・ジェイムスというジャンルの音楽が成熟期を迎えたことを示しているのではないだろうか。よもや彼に対して<成熟>なんて言葉を使うなんて、かつては思ってもみなかったけれど。
bounce (C)池田謙司
タワーレコード(2001年11月号掲載 (P80))
エイフェックス・ツインの新作について語ることは、エイフェックス・ツインことリチャードD・ジェイムス自身について語るのと同じくらい難しい。できることならナシで済ませたい。それがダメならこの新作を、世界一有名な歌うコンピュータ、HALに聴かせてみたい。スタンリー・キューブリックでもいい。あるいは夢をコントロールする民族といわれた、セノイ族の若者たちでもいい。動物園で神経衰弱になった象でもいい。沈みっぱなしのタイタニック号でもいい。これがなにに効く<ドラック(グ)>なのかを見極めたい。2枚組、全30曲というこのヴォリューム。ジャケットにはピアノの内部写真があしらわれている。アルバムには数曲のピアノ・ソロが収録されている。それはどれも古ぼけていて悲しげで、雨の音と間違えそうだ。リチャードの頭のなかではこんな雨が降っているのかもしれない。激しいビートのなかにも激しい旋律がある。座頭市の背中みたいだ。座頭市にも聴いてもらいたい。トム・ヨークは聴いてるだろう。『Kid A』におけるエイフェックスからの影響は、メディアからやいやい言われた。トム・ヨークが憧れ、畏れた音楽の終わり・・・。『Druqks』は音楽からすべてのいいわけを奪う最強のワクチン。『Druqks』はこれまで以上に混乱はしているけれど、
これまでどおり嘘はない。リチャードの鼻腔から入って神経細胞を巡るようなこの長旅のなかで、われわれは戸惑いながらも、最後には愛さずにはいられないだろう。このキリスト面の怪物を。
bounce (C)村尾泰郎
タワーレコード(2001年11月号掲載 (P80))